建築は

 建築は風景(都市、自然)の中にあって、「自然の感覚」をその内に宿し、力強く優しさを携えつつ確実な存在感を持って在り続けたい。建 築はそれが建つことによって、周囲の風景がより美しくなるようなものでありたい。建築をとりまく環境が美しいものであれば、その内に安ら かに溶けこみ、それが醜悪なものであれば、周囲と対峙しつつも確実な存在感を主張し続けてゆきたい。世俗的な様々なる事柄を思い、宇宙 自然の大いなる拡がりへと想いを馳せる私達の想念の振幅に、建築はその時々に応じて呼応したい。たとえ床や壁や天井等が汚れ、傷つき、色 褪せてもなお、建築はその空間性に於て、行動の自由が尊重された豊かで大らかな空間として、私達に真実を語り続けてゆきたい。どのような 時代であろうとも、住まいの本質はシェルターであり、太陽と共に息づき、曇天の静けさの中に身を沈め、雨の水音に耳を貸しつつ、夜ともな れば灯りの下に集い、闇の奥深きを畏れ、またそこに、宇宙へ通ずる神秘を見い出し、素材の確かさに触れ、そよぐ風の心地良さに身をまかせ、木枯らしからの避難所となり、四季それぞれの素晴しさに感謝して、快適な設備と確かな構造によって支えられたものでありたい。建築の空間 とは、それら全体を通して現れるものであり、特に住まいに於ては、空間を感じる歓びに心ふるわせる時を持つことが出来れば、人生の様々な 局面に、夢や希望や勇気を感じ取ることが可能であろう。そしてそのような住宅は、あなたの大いなる味方であり、あなたが生きていることを 祝福し、喜び、怒り、哀しみ、楽しみをあなたと分かちあい、あなたと共に生き続けることだろう。





















私達は、人間関係によってできている社会的な様々なる出来事を「現実」と理解しがちであるが、真の現実とは、それらを含みつつ大いなる時空的拡がりを持った宇宙、自然そのもであると私は信じている。


空間を感じる歓び


 建築は人間の生活の為にあるものですが、より深く宇宙のシステムであるところの自然の摂理にかなったものとして生まれいずるものでなくてはなりません。それは人間が、生命がそうあるがごとくあるものだといえるでしょう。ですから建築は、生きる感覚の表現であるともいえるのです。しかし醜悪な建売住宅や大量 生産されたプレファブのような商品としての住宅にみられるごとく、建築は容易につくられてしまうのが世の大勢であり、恐ろしいことに、そのような商品によって私達は自身の環境をつくってきたのです。そして又、単なる奇抜な形やコンセプトのみが優先され、実体としての力を失った建築がジャーナリスティックにもてはやされ、強い社会的影響力を持ってしまうという情報化時代の中に私達は生活しています。確かに建築は、商品としての側面 、そして情報としての側面はありますが、いらないからといって、しまえるようなものではなく、逆に人や物を入れる容器の方であり、土地に固着して、その土地固有の風景を創ってゆくものなのです。建築のそのような環境形成力は、非常に大切なものであって、私達がどこへ行っても、同じようなうんざりする風景に出会わない為には、建築は一つ一つ愛情を持って、固有なるものとして創り出されねばなりません。建築は様々なる因子が、その目的に従って機能するところの重層多次元の構造を持つ訳ですが、最終的には物質の特殊な存在様式として表されることになります。そして、その本質はそれら物質そのものではなく、それらによってつくりだされる空間にあるのです。素晴らしい空間を創り出すことこそ、建築に可能な最重要な表現領域だといえるでしょう。そして物や形を越えて、空間を感じる歓びを持つことができる建築は、私達の人生をより意義深いものにしてくれることでしょう。


宇宙・自然・生命・人間・文明・美・についてのエスキース


そこにそれがあることが自然であるようなものを、私は創りたいと思う。しかし、私達は「自然」という言葉に対立する「不自然」という言葉をも所有している。これら二つの概念を共有せざるをえないところに、人間の宇宙の中における位 置を私は想ってしまう。人間は明らかに自然の中の一つの存在形式でありながらも、自然を客観視する能力を併せもっている。人間が自然を観察することによってその機構を知り、また美しさを感じるということは、自然が人間という形をとって、自身の姿を確認している作業であるともいえるのだが、このような意味において、私は人間を「自覚する自然」と呼んでいる。言葉を替えていえば、生命という現象は、自然の自らを納得せんとする力の現れなのだということである。ここで自然は、人間にそのような力を与えるということが、不自然な力をも与えざるをえないといことを解っていたのだと私は思うのだが、自然はその危険を冒しても生命を生み出したのだといえるだろう。自然は生命という手段によって自身が何ものであるかを知り、自身の時空的な拡がりを知り、自身の美しさ、自身の力、自身の醜さを知りたいのだと、私は解釈している。そして人間の誕生を見たときに、人間にそのような使命を託したのだと思う。だから自然は、人間という存在に賭けてみたのだともいえる。さあ君達!どんなことができるのかやってごらん。私は見ているから・・・・と。私達人類の営為は今、地球を越えて拡がりを持ち始めたのではあるが、文明は結局、領域を持った現象として存在しており、その外界は常に自然の広大なる拡がりである。その自然との入力および出力が、私達の営為の自然との関わりであり、それゆえ私達の営為の反映として、自然は常にあったのだといえる。私達の文明が、海や陸や空を汚染すれば、自然はその反映として、悲しい姿を私達の前に見せるのだし、私達の文明が美しいものであれば、自然は喜びを持って私達と融和するであろう。しかし未だに文明は、子供が自身の排泄物を母親に始末してもらっているのと同じような、幼児的性格を持った低次な文明として留まっており、その進むべき方向を見失っているかのようである。私は自然に対する畏敬の念を感じながら、文明の進むべき方向を「文明が自然になること」だと思っている。確かに私達は、文明と自然とは対峙するものであると考えてきた。人間が文明を手にした時から、人間は自然から解き放された存在として考えられてきたわけである。しかし文明というものは自然の中の一つの領域でしかなく、文明が永続するためには、その外界である自然の体系の上に則ったものとして文明を構築しない限り、文明は不自然なものとして、自然の中で存在不可能なものとなってしまうことであろう。あり得べき文明の姿として、文明自身が自然の持つ大いなるシステムを獲得することが可能であれば、文明は決して自然に反するものではなく、逆に、それがあることによって自然がより美しくなるものといえるだろう。来るべき文明のそのようなヴィジョンを実現させるためには、より深く自然を知り、そして自然を感じることが大切である。本物の文明への道はこれから始まるのだと私は思う。しかし「美しい」という言葉が力を失ったかのように見える私達の時代は、計量 計測でき得るもののみが優先されており、人間関係によって成立している社会という次元が、人間の存在そのものを規定している宇宙という次元を駆逐してしまい、人間の存在を矮小化しているように私には感じられる。美とは優れて発見的な言葉であるが、私達の美を感じる感覚こそ、人間が自然からプレゼントされた羅針盤なのであって、生命を律する力を持つものであり、私達の営為を最終的に判断する言葉なのだ。そこにそれがあることが自然であるようなものを、私は創りたいと書いたが、それは、自然の感覚を携えつつ、美を目指す以外の何ものでもないと私は思う。





























私達は20世紀に至って宇宙に浮かぶ生命体のような青い球体を、人類史上初めて外宇宙から見ることができた。この美しい地球の上で、私達がなすべきことは、一体どういうことなのだろう。


事実を越えて真実へ


どうしてもっと先へ進めないのか、と思うことがある。建築は虚構なのだという考えに頷きながらも、強く抵抗を感じている。それは、人間が自然の中の一つのあり様であるという真実に、僕が拠って立っているからなのだと思う。建築をも含めて、人間がつくり出すすべてのものは、人間の思考を経た後でなければ出来ないが、作為的であり恣意的なものは不自然に見え、そこにそれがあることが自然であるようなものがもつ充実した感覚の素晴らしさと比べると、とるに足らないもののように見える。だから建築は、自然の感覚を携えてあり続けたいと思う。それは虚構といった類のものであるはずがないと、僕は感じている。建築とは真実をつくる作業であって、虚構の如く見える現実の情況は、矮小化された人間次元の感覚によってつくり出された事実でしかないのだ。それは事実ではあるが、真実ではないといえる。自然の感覚を失うことによって、僕たちは方向を見失ったのだと、僕には思える。今大切なことは、事実を越えて真実をつくり出すことだと、僕は思う。


建築の本質

 
  紀元前5世紀に、老子は「建築の真実性は、その屋根や壁にあるのではなく、それらによって囲まれた住まわれるべき内部の空間にある」と述べました。岡倉天心は、その著「茶の本」の中で、それは虚であり、虚のうちにのみ本質的なものが存在しているとして、水差しの有用性は水を注ぐことのできる空所(虚)にあるものであり、その形や素材にあるのではないと記しています。私達の世界は確かに物質的には豊かになりましたが、建築に於ける真の豊かさ、建築の虚なる部分である空間について、建築の「空間性」について、より深く考えることが大切であると私は思います。





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